名古屋地方裁判所 昭和37年(ワ)1353号 判決 1962年12月15日
原告 大橋光雄
被告 学校法人名城大学
主文
本件訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告は「原告が被告の理事並びに理事長の地位を有することを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因等として次のとおり述べた。原告は昭和三三年一二月一日に被告の寄附行為第七条第三号に基き被告の理事に就任し昭和三五年二月一四日に被告の理事長に就任した。登記簿上、原告は同年五月一一日に被告の理事会の決議でその理事並びに理事長の地位を解任された旨の記載があるが、右理事会決議は無効であるから、現在なお右の各地位を有するものである。被告は当裁判所昭和三五年(ヨ)第五二八号、同第六八二号併合仮処分事件判決によりその理事長職務代行者を選任せられていたが、昭和三六年二月その仮処分申請の取下によつて右代行者の任務が終了したものであり、その当時において被告の理事として行動し得たものはその地位の登記がなされていた兼松豊次郎及び伴林並びに仮処分によつてその地位を保全されていた原告、小島末吉及び日比野信一の五名であるが、右のうち兼松及び伴は昭和三六年二月一八日に理事長互選会で原告が被告の理事長であることを確認しておりまた小島及び日比野は原告が被告の代表者としてその仮処分請求を認諾したことによつて理事の地位を仮に定められたものであるから、いずれも原告が被告の理事長であることを有効に争い得ないものと解すべきである。なお本件訴訟は当庁昭和三五年(ワ)第一五一三号理事地位確認請求事件及び同年(ワ)第一九〇一号理事長確認請求事件の二件を手続一新のため取り下げて改めて提起したものである。
被告代表者兼松豊次郎の委任による被告訴訟代理人は本訴請求を認諾する旨を述べ、被告代表者日比野信一の委任による被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その理由として「本件は当裁判所に係属中の昭和三五年(ワ)第一五一三号及び同年(ワ)第一九〇一号各事件と同一であり二重起訴として不適法な訴である。」と述べ、被告代表者田中卓郎の委任による被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として「原告主張の事実中、原告が昭和三三年一二月一日に被告大学の理事に就任したこと、登記簿上原告が解任された旨の記載があること及び裁判所により選任された理事長職務代行者は仮処分申請の取下によりその任務が終了し、当時兼松と伴が理事として登記されており、原告・小島及び日比野は仮処分判決によつて理事の地位を仮に定められていたことを認めるが小島と日比野がその理事たる地位を、原告が被告代表者としてなした認諾により仮に定められたものであること及び原告がその主張の如き他の二件を取下げて本訴を提起したことはしらない。その余の原告主張事実を否認する。兼松及び伴の理事選任は不適法であつたので無効である。」と述べた。
原告は適式な呼出を受けながら被告代表者兼松豊次郎の委任による訴訟代理人が右陳述をなした後の本件口頭弁論期日に、認諾による訴訟終了を主張して出頭しない。<立証省略>
理由
まず被告代表者兼松豊次郎の委任による被告代理人の認諾の効力につき判断する。被告の本件訴訟追行にはその理事兼松豊次郎日比野信一及び田中卓郎の三名がそれぞれ被告代表者として関与している。当裁判所は、本件において被告の理事は各自被告を代表する権限があるものとして原審裁判長の訴状却下命令を取消して本件を当裁判所に差戻した抗告審の判断に拘束されるものであるから、結局前記三名をいずれも被告の代表者と認めるの外ないところ、本件第一回口頭弁論期日において被告代表者兼松豊次郎の委任による被告訴訟代理人は本訴請求を認諾する旨陳述したが被告代表者日比野信一及び同田中卓郎の委任による被告訴訟代理人は原告の請求を争つて訴の却下或は棄却を求める旨を陳述した。右の如く同時になされた同一当事者の各訴訟代理人の陳述が全く矛盾する以上結局被告の右陳述は趣旨不明の無意義なものとして何等の効力を生じないと解さざるを得ない。従つて前記被告代表者兼松豊次郎の委任による訴訟代理人の陳述によつては被告の認諾としての効果を生じ得ないものである。
そこで本件訴につき審理するに、本訴請求は原告が被告の理事並びに理事長の地位を有することの確認を求めるものであるところ、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一及び第二号証によれば、既に当庁に係属中の昭和三五年(ワ)第一五一三号理事地位確認請求事件は、原告外一名が被告外三名に対して原告らが被告の理事たる地位を有することの確認を求めるものであり、また同様係属中の同年(ワ)第一九〇一号理事長地位確認請求事件は原告から被告外二名に対して原告が被告の理事並に理事長の地位を有することの確認を求めるものであり、本件と同一事件の関係にあることそうして右二事件はこれを取下げた旨の原告の主張に拘らず現に当庁に係属中であることが認められ、右認定に反する証拠はない。してみれば本件訴は二重起訴として不適法なものというべく却下を免れないものである。
よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 布谷憲治 外池泰治 白石寿美江)